2009年05月31日

『自分の年齢を正しく言える大人』

人は成長する生き物だ。

身体的な成長はもちろん、心次第で精神的にも成長することができる。

今回はそんな成長の話である。

子供の頃は早く大人になりたかった。

それは、大人は完全な1人の人間として社会に認識されるからだ。

子供だからまだ理解できない、と言われたり

もう10時を過ぎたから寝なさい、と言われたりしなくなるからだ。

そういう単純な理由からだったが…。

しかし今はどうだろう?

年を重ねるごとに若返りたい、子供の時代に戻りたい、などと過ぎ去った時ばかりが輝いているように見えてしまう。

そんな人は多いのではないだろうか?

大人になってみてわかったことは、大人の中身は子供の時のあまり大差ないということだ。

楽しみを見つけたらそれをとことん楽しむし、自由になる金銭が多ければ多いほどその傾向は強い。

子供だったからこそできたこと、があるなら大人だからこそできること、もたくさんある。

よく年齢を聞かれて、

「いやぁ、自分の年齢はもう忘れたいですね」

などという具合にはぐらかす人がいるが、それは無意識のうちに大人である自分を否定しているのでは?と思う。


そんな中

「私は今年で42歳になるけれど、いつまでも自分の年齢は自信を持ってハッキリ言うことにしているの」

という女性がいた。

なんとも清々しい言葉である。


人間は成長する生き物だ。

身体的な成長とは生まれた時から「老いていく」という束縛の中にある。

それはどんな生物にも共通するこの世の理。

ならば、老いてゆく自分を受け止め、彼女のようにいつまでも堂々と生きていきたい。


そんなことを教えられた。

ダンススニーカー

『自分歴史帳』

小学生の頃、初めて日記をつけた。

夏休みの宿題の1つである「夏休み日記」だ。

小さい頃は毎日が発見の連続だったような気がする。

今よりも純粋に物事に感動し、探究心も強かった。

常に「なぜ?」という問いかけが頭の中にあったように思う。

その頃から日記をつける楽しみを知り、いつの間にか日記帳はノートから立派な背表紙のついた物に変わり、冊数も増え、今では5冊になった。

ブログという簡単に日記を書ける機能がネット上に生まれるまで、私は日記を書いていた。

今ではすべてがパソコン作業となり、手で触れることはなくなってしまった。


引っ越しの際、荷物を整理していたらこれらの日記帳が出てきた。

手垢で薄汚れたその日記の中には過去の自分が詰まっている。

嬉しくて泣いたこと、悔しくて辛くて泣いたこと、様々な感情がリアルに蘇る。

記憶の淵で忘れられていた詳細な出来事までも、もちろん思い出したくなかったことまでも

日記は教えてくれる。

それは自分の、自分にしかない歴史帳だ。


そして、私はその日記帳の内容を基に1作の小説を書いた。

今年にその物語が本として出版されるのだから、人生どうなるかわからない。

手軽に更新できるブログもいいが、それはすぐに取り出すには不便だ。

やはり肉筆で、ザラリとした(もしくはサラリとした)手触りを楽しみながら毎日日記帳を開く。

もう1度、日記を書き始めようと思う。


バナーバレット

『白の祈り』

大雪の日だった。

夕べからしんしんと降る雪はいつもの景色を白銀の世界へと変えていた。

部屋から出てはいけないよ、と昨夜のうちから約束させていたにもかかわらずそれを容赦なく破る君の体を想う。

煩わしい病に侵された胸にこの冬の空気は天敵だった。

火鉢によって暖められた和室はただ広く、主の消えた床は当の昔に温もりをなくしている。

「また、か……」

繰り返される小さな裏切りにはもはやため息しか出てこない。

君の気持ちは理解しているつもり……。

肺を患う体を憎みながら君は外の世界を長い間見つめていた。

そんな君を同じ時間だけ僕は見つめていたのだから。

幼馴染と呼べるうちは、君の隣は僕の物。


襖を開けると庭に面した廊下の端に盆に載せられた二匹の雪うさぎが座っていた。

乾いた葉を耳代わりに刺し赤い眼は固く結ばれた実が並ぶ。

思わずこぼれそうになった笑みを押し止め僕は君を探しに庭へと降りた。

薄い着物の懐から滑り込む冷気。

ちらちらと舞う雪が少しだけ、心地良い。

母屋の方へと続く小道を少し行くといつも通り、桜木の下で君が空を見上げていた。

天に向け、白い祈りを施す君の小さな背が寒さに震えている。

僕は地面に被った真っ白な雪を撫でると小さな玉をこしらえた。

丸めた雪玉は今にも崩れそうなほど脆かったがフワリと放り投げるとその身を散らしながらも君へと降り注いだ。

「怒っているのか?」
『それはこっちの台詞』

僕の問いかけに振り返る君の瞳が潤んでいる。

僕は……白い手足を晒しながらこちらに駆けてくる君の細い体を抱きしめた。

降り止まぬ粉雪が鼻先に乗って、すぐに溶けた。

「早く、中に」

見上げる君の清らかな瞳が促す僕の足と心を躊躇わせる。

『まだ、降るかな?』
「まだまだ降るよ」

僕の袖を掴む指が固く震えている。

途切れた言葉の続きを聞くまいと冷たい肩を抱くと、君は大きな瞳いっぱいに熱い涙を溜めていた。

雪がやんだら……僕はここからいなくなる。

親が決めた結婚に逆らうだけの理由は何もなかった。

長い月日を近い場所で過ごしてきたけれど、訪れる現実に立ち止まる心。

元気になったら、と未来を語ることを止めた時から僕らは心のどこかで春を待っていた。

籠の中に戻ると火鉢で温められた室内で君は身を抱きしめて笑った。

笑うしか、ないから、と一人で納得を決め込む君の冷え切った頬を包むと強がりな瞳が真っ直ぐ僕を捕らえた。

《大丈夫だよ》

そう言われているような気がして僕は見せかけの安堵を伝える。


今年の雪がやむ前に。

招き入れた雪うさぎが溶ける前に。

この想いを精算しようか。


冷え切った体を寄せ合うこの刹那だけは、未来を棄てて心の主(あるじ)に白い施しを。

そんな冬の日。


                                          終


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『昔々のおはなし』

昔から伝わる話というのは、世界各地に存在している。


小さい時に読み聞いた絵本や童話などは、時代が変わっても口々に、そして書物として残っている。

昔の話、という枠の中で一番知られているのは聖書だろう。

神の啓示を受けたヨハネがこれを書き記したとされている。


その他に有名なのがギリシア神話や北欧神話、グリム童話などが挙げられる。

世界の国々の子供たちは、このような昔話や神話を聞いて育つ。


さて、世界的にも有名な動画サイトに「you tube」がある。

これは個人が作成した動画やアニメ、面白映像や音楽アーティストのPVなどを配信しているサイトだが、この中で面白いアニメを見つけた。

そう、「にほん昔はなし」である。

桃太郎やかちかち山、鉢かぶりひめや三年寝たろうなど、なつかしい日本の昔話を素朴な絵柄でアニメーション化した、歴史の古いアニメだ。

誰しも1度は観たことはあるんじゃないだろうか?

登場人物は、おじいさんおばあさんから、鬼や妖怪まで多種多様で、ほんの10分程度の物語ながら、

人生の清い生き方や、教訓などを教えてくれる。

何年ぶりかに観た「にほん昔はなし」は大人が観ても十分に楽しめる内容だ。

自分の国に古くから伝わる伝説や物語を楽しく知る。

もし時間があるならば是非検索してみてほしい。

懐かしさと、ほっこりとした温かさが胸に湧いてくるだろう。


リフィート


『コラボレーションの魅力』

さて、私は今、大阪在住の作曲家とコラボレーションをしている。

彼が作った楽曲に歌詞を付けるという仕事だ。

これは音楽と文字のコラボレーションである。

さて、先日久しぶりに映画を観に行った。

大迫力のスクリーンの中にあるのは、音と音楽、物語、演技という映像が繰り広げられていた。

これもコラボレーションだ。


音楽業界で最近流行っているのが、アーティスト同士のコラボレーション。

それは楽曲を提供する側と歌い手、作詞家などが繰り広げる創作作品である。

自分一人で何かを生み出すことはもちろん、できる。

しかし、自分の中にはないアイデアを混ぜ合わせていくことで、全く新しい世界を作り出すことができるのがコラボレーションの魅力である。

文字の力は強いといわれるが、紙の上、そしてweb上ではそうも言いきれない。

文字はそれを彩る絵や画像、音楽などによってさらに活かされる。

この記事を読んでくれているすべての人に感謝を送ります。


ヴィリジアン


『メンタリングの効果』

先日、友人達とボーリングに行った。

最近では3ゲームでのセット価格がお得…というわけで3ゲームにチャレンジしてみた。

ボーリングをするのは何年ぶりだろうか。

若い時は軽々と持てたボールも、今指を入れると腕がきしんだ。

軽いボールを選んで投球する。

……やはりうまくいかない。

スコアはボロボロ。


私がカンを取り戻したのは2ゲーム目が終わるという時だった。

なんとか数本のピンを倒し始めた時、一緒にプレイしていた友人があることを提案した。

「今からメンタリングの練習をしない?」

メンタリング?」


簡単に説明すると、メンタリングとは物事を成功に導くために精神を鍛えることをいう。

コーチングの一種であり、その用途は企業やカウンセリング、物事へと取り組む動機付けに使用されている。

「ラストの3投球は、自分の全力で勝負を挑むんだ。集中力を鍛えて、もし失敗しても落ち込まずに次の目標に進めるように精神に覚えさせる訓練をするんだよ」

もし、あなたが本命の企業の面接を受けることになった時

もし、あなたが小説の原稿〆切に間に合わないかもしれないと焦った時

もし、あなたが失敗が許されない事柄に直面した時


人は誰しもプレッシャーというものを感じる。


しかしそのプレッシャーに負けて本来の力が発揮できなければ後悔に襲われる。

これは、そんなメンタルをコントロールする方法の1つである。


「よし、やってみよう」

レーンに立ち、気を集中させる。

この時、心は「やり遂げてみせる!」という熱意に溢れるが、体は冷静に保つ必要がある。

変に力を入れずに、けれど心は熱く。


すると1球目は数本しか倒せなかったピンが、2球目には全て倒れスペアに。

他の友人も同じくいい結果が残せた。


大事なのは失敗しても諦めず、手を抜かず、全力で再チャレンジすること。

それを繰り返していくうちに、メンタルは強化され、多少のプレッシャーでは動じなくなってくる。

ボーリング、として普通にプレイするだけではなく、このように自分を成長させるスパイスを盛り込めば、

どんな遊びも人生の糧となる。


よし!これで〆切なんか怖くない…ぞ?


あなたも身近な物でお試しあれ!!


ロイヤルプッシー

『神秘の産物』

自分の誕生石を知っているだろうか?


誕生石とは、自分の生まれた各月ごとに定められた宝石のことである。


身につけると幸運が訪れると言われ、アクセサリーとして、またお守りとして広く重宝されている。

しかしこの誕生石、国などによって少々異なることはご存知だろうか?


現在知られている代表的な誕生石はこちらだ。


1月→ガーネット

2月→アメジスト

3月→アクアマリン

4月→ダイヤモンド

5月→エメラルド

6月→ムーンストーン

7月→ルビー

8月→ペリドット

9月→サファイア

10月→オパール

11月→トパーズ

12月→トルコ石

これは1952年にアメリカの宝石小売商組合団体によって定められたものだが、今日ではその数も増えている。

4月に水晶が、6月に真珠、9月にラピスラズリが追加されたりと、その販売戦略は国ごとに複雑化している。

また、誕生石を含めた宝石には花言葉のように1つ1つ意味が付けられている。

ダイヤモンドは永遠の愛。

エメラルドは幸福、といったように。


それらの中から自分が欲する効果を選び、パワーストーンとして身につけるスタイルも生まれた。

これらは宝石販売業の戦略といってしまえばそれまでだが、古代から宝石として、また儀式に欠かせな

いものとして、そしてその加護を信じる人たちにとって、宝石とは今も昔も神秘的な魔力をもつ地球から

の贈り物なのである。

ラッシュガード


2009年05月26日

『自殺という幕』

生まれてくることは選択できない。

けれど死ぬことは選択できる。

それが人間という生き物です。


他者の力により、不幸にも命を落とす人がいる。

不運な事故や、病、そして何らかの事件に巻き込まれる場合だ。

けれどそれらは全て外部からの力で、その人たちは自分から「死」を選んだわけじゃない。


自らの意思で「死」を選び実行することを「自殺」という。


人生に何の価値も見出せず、精神的なよりどころのない人は、個々の世界に入り絶望感に苛まれる。

または悪質ないじめを受けていたり、事業の失敗、政治的な責任から自殺をする人は後を絶たない。


こんな話を聞いたことがある。


人間は、誰しも人生の中に何か達成しなければならない試練を抱えていて、それが達成された時、もしくは寿命に達した時に死ぬという話だ。

もしそれが本当ならば、人生の途中で自殺を選んだ人たちはその試練を放棄したことになる。

目の前の苦しみから逃れたい一心で「死」を選ぶが、そんな人に待っているのは苦しみばかりの死後の世界だ。


死後の世界なんてものは存在しない、と言われるかもしれないが、存在しない理由もないしある理由もない。


もしこの記事を読んでいる人が自殺を考えているならば・・・


1度「自殺防止サイト」を覗いてみてほしい。


そこには今のあなたに必要な答えが載っているハズだから。


どうか自分で命の幕を降ろさないで。

それが祈り。

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『救われたい魂のさけび』3

『あなたたちは自分が苦しみから逃れたいがために自ら死を選び、周りの人達を、そして自分の未来を不幸にしたのです』

『それがあなたたちの罪。苦しみはいつか解放される。それを信じなかったあなたたちは償わなければなりません』

「どうやって!?」

「私たち地獄行きってこと!?」

『魂の墓場でしばし眠りにつくのです。そうすれば長い時の中であなたたちの罪は癒され、再び地上へと生まれ変わることができるでしょう』

『そして願わくば…次の人生で同じ罪を犯さぬように生きるのです』

 6人は黙ったまま何度もうなずいた。

『さぁ行きなさい。遠い遠い未来へ。』

 
そしてすべての光は消え失せた。




再び訪れた闇の中、声が響く。

『クリス、キミはここに来てから何百、何千何万の人間の魂を見てきましたね』

その声に導かれるように、先ほどまで自殺者たちを照らしていた光が弱よわしい熱を帯び出現した。

光の中に浮かび上がるのは一つの魂だ。

『それで?答えは見つかりましたか?』


「…いいや」

クリスは静かな声で言った。

その口調には落胆の色がある。


「わかったのは人間の罪ばかりだ。破壊欲望憎悪。そして涙」

『笑顔もあったでしょう?苦しみから解放されて死を喜んでいる少女もいました』

「でままだ人間を好きにはなれない。だからまだ自分の存在も認められない。だから…まだここからは動けないよ」

クリスは闇の中の何かを見つめた。

「人は失ってから気付くんだ。いつでも。今も昔もこの先も」

そこにあるのは現在であり、過去であり、未来。

『クリス、永遠というのはどこにも属したりはしないのです』

言う声が揺らいだ。

『ああ、ほら…私にもその時が来たようです』

『今度はキミが私に代わって彼らの魂を導いてくれると願っています。キミ自身が自分の答えを見つけるまで』

声は徐々に音をなくしてゆく。


『でも最期にこれだけは言わせてください。たくさんの人間が、人間として生まれたこと、自分の存在がどれほどこの宇宙に歓迎されていたのか、そのことに誰一人何の価値も見出してはいませんでした。それでも、私はそんな人間が大好きでしたよ』

声は闇の中へと溶けこんでゆく。

「それはさ…ボクのことも好きでいてくれたってことだよね」

闇からの返答はなかった。

変わりにやってきたのは、姿なきうつろな魂たち。

クリスは自分の存在が闇に溶け込んでゆくのを感じた。

その闇の中、意識を開く。


「…お客さんだ。じゃぁボクは…答えを見つけるよ。しばらくはここで」


永遠なき場所で、何度も回忌しながら。

クリスは一人、闇の中へと手を伸ばした。

もうすぐ次の客がやってくる。


[ようこそ、罪深き魂たち…]

…ここは、死と、闇の世界。

救われたい魂の、叫ぶ場所。



FIN

ビーグレン


『救われたい魂のさけび』2

「なんだよ。みんな結構くだらないことで死んでるよなぁ」

全員が語り終えると、カインは口を開き下品に笑った。

「ま、事故とかで突然死ぬよりいいか。なぁ、こう思わねぇ?
オレ達は自分で死の時期をコントロールしたんだ!って」

まだクスリの効果が残っているかのようにカインは虚ろな目でみなを見渡した。

声が問う。 

『…あなた方を自殺に追い込んだのものは何でしょうか?』

その問いかけにみな目を見開いた。


「「「「「「腐った世の中だ!!!!!!」」」」」」


叫びに反応するように、中心にあった光が徐々に力をなくしてゆく。
彼らの姿は再び闇の中に埋もれた。

『今はなきあなたたちの未来を見てみますか?』

静まりかえった闇の中、声が響いた。

『もしあなたたちがこの場所に来ることなく、自分の与えられた人生を楽しむことができていたら…』

その声と共に、みなの意識へ映像が流れこんでいく。

それは夢を叶えたり、愛する者を手に入れたり、愛されたり…。
 
みんなが本当は望んでいた未来の姿がそこにはあった。


「…自殺しなかったらこんな未来が待っていたっていうの?」
「嘘だ!そんなわけがない!」

みな口々に叫びだす。

『これはあなたたちが掴むはずのチャンスでした』

「チャンス?」

『今見たことが必ずしも叶うわけではない。けれど叶えることができるチャンスは、誰の上にも平等にあったのです』

「死んだらすべてが終わりだわ」

少女たちが寄り添いながらつぶやいた。
再び静寂が訪れる。

『あなたがたは…死んで楽になったのですか?』

声は問うばかり。

『次はこれです』
次に声が見せたのは、残された者の悲しみだった。

家族、友人、恋人、知人、同僚、ニュースを見て自殺を知り、心を痛める人々。

たくさんの人の悲しみがみんなを襲った。

それは地上にいる数えきれないほどの人間が抱えている、消えない痛みだった。


他人に子供の命を奪われた親。

銃殺。
事故死。
戦死。
病死。

そして自己死である自殺。

世界の自殺者数は年間100人。

アメリカでは18分に1人が自ら死を選んでいる。。。


「…じゃぁ月曜日にねって。それが最期だったから…毎週月曜日は家であの人を待っているの」

「銃で、頭を撃ったんだ」

「あの人は飛び降りたよ」

「手首を切った」

「もしあいつが生きていたら…俺の人生は変わってた」

「17歳だったの」


「生きて……ここに居てくれたら…」

生きていさえいれば!!

『…今も世界中で、自ら命を絶とうとしている「誰か」が大勢います』

闇の中に一人の人間の姿が浮かんだ。

どこかの国の、20代前半の男だ。彼は何かに向かって叫んでいた。

声は聞こえないが必死の形相で何かを訴えているようだった。その手には猟銃がある。

それが誰かに向けられ、また降ろされ、また狙いをつけようと動いた。

『人間には選択権があります。選ぶのは他の誰でもない。自分なのです。しかしこの彼の中には2つの選択肢しかない。彼は迷っている。人を殺すか自分が死ぬか』

男は猟銃で狙いをつけた。
口をぱっかりと開けた自分に。

「やめて!!」

少女達が叫んだ。

それと同時に見えていた映像が切り替わる。次に光の中に写ったのはどこかのビルの屋上で佇む女。

空の一歩手前の足場でたちすくんでいる。一歩踏み出すだけでまっさかさまだろう。

女は静かに目を閉じ、身を乗り出した。


そしてまた映像が切り替わる。
次は自分の腕にナイフを当てている少年。

その次は線路に飛び出そうとしている中年の女性。

次は自分の首に縄をかけている男性。

次は…

「いやぁぁぁぁ!!」

「やめて!死なないで!」

光に向かって少女は手を伸ばした。

しかし実体をもたないその手では光を遮ることはできない。

それは各々の罪のすべてを照らすかのように強く光っていた。

自己流子育て哲学

『救われたい魂のさけび』1

『さぁ始めましょうか。クリス』

楽しい楽しい人間ショーを……。



『ようこそ、罪深き魂たち』

暗い部屋の中から唸るようにその声は言った。

声の主の姿は暗闇で見えず、呼ばれた者たちは当惑を隠しきれない。

何しろ自分の姿すら見えない。

圧倒的な闇の中で数人の荒い息遣いだけが近く聞こえる。

『こちらへどうぞ』

その声がそう言うと、目の前に灯りが灯った。

しかしそれはおぼろげな光で確かな形を成してはいない。

それでも闇が去ったことでいくらか安堵したのか、呼ばれた者たちはその光へと集まってきた。

自分の他に人が居ることを確認する。

闇に慣れていたせいか、彼らの目にはまだ人としての輪郭を認識しただけだったが。

「なんなの?ここは」

人影のうちの一人が口を開いた。女だ。落ち着きがなくキョロキョロと辺りを見回している。

「わかんねぇ。どうなってんだ?オレはさっきまで部屋で…」

「気付いたらここに居たんだ!」

男の声に続き幼い声が悲鳴をあげた。

みな自分の置かれた境遇を必死で理解しようと記憶を辿っている。

「…私たち、薬を飲んだの。いっぱい」

「うん。一緒に飲んでた」

別の影が二つ現れた。光に照らされて顔はわからないが、まだ少女のようだった。

その後でしゃがれた声が響く。

「俺は逃げていた!あいつらが追ってきたんだ!だから…!」

誰もが「まさか…」という想いに囚われ始めたその時、声が言った。

『はい。あなた方は自殺者です。思い出しましたか?自ら命を絶ちましたね?』

みな黙り込んだ。みなに自覚があった。

しばらくしてから女が言った。

「で?自殺したあたしたちが何故こんなところに居るの?なんで意識あんのよ!ちゃんと死ねたんでしょ!?」

『はい。死んでいますよ。ちゃんと死んだからここに来たのです。でもね…』

姿のない声の主は感情のない声色で続けた。

『死後の世界では意識がないなどと誰が決めたのですか?そりゃぁキチンと死んだ方たちはそのまま安らかに天に昇りますよ?でもあなたたちは…』

「自殺者だわ!私たちの血は呪われている!神は天に行くことをお許しにならないんだわ!」

少女がヒステリックに叫んだ。

その隣でもう一人の少女がうずくまり口の中で何かを唱え始める。

「主よわたしたちをおゆるしくださゴニョゴニョ……」

『自ら生きる権利を放棄したあなた方に安息などありません。さぁ、己の苦しみを語って戴きましょうか。』

少女がすでにしてもいないはずの息を止めた。

そして全員、光を受けてその身をはっきりと浮かび上がらせた。

そして視線は自然に、一人の女へと注がれた。




「片瀬 美奈子。しがない建設会社の事務員」
『死んだ時の年齢は?』
「……29よ」

「7年付き合った恋人がいたわ。結婚するはずだった。約束も何にもしてなかったけど、それだけ長く一緒に居たら普通に結婚するって思うわよね?

でもあいつ、他に好きな子できたから別れようって…。こんなのありえないよねぇ?

しかも13も年下の女と!確かに浮気するような奴だったけど、最後は美奈子だけだよって言ってたのよ?……とにかくあたしは捨てられたの。三十路を前にね。周りがバタバタと結婚していく中放り出されたの」

『だから?』

「あいつの部屋で手首切って死んでやった。陳腐なドラマみたいでしょ?」


「堀田 健司。12歳。小学生。」

「いじめられてた。学校に行きたくなかった。でも先生もお母さんもお父さんも、わかってくれなかったよ。お兄ちゃんはよしよしってされるんだ。

でも僕には笑ってくれない。この前お母さんのコップ割ったら叩かれたんだ。
そんなことしょっちゅうだったから痛くなかったけど、追い出された。

いらないって言われた。
……イタカッタ。
もうどこに行ったらいいのかわからなかったんだ」

『だから?』

「マンションの屋上から飛び降りた」


「カイン。本名は…田中 義雄。31歳のパンクロッカーだよ」

「5年前にやっとメジャーデビューしたんだけどさ、なんでか全く売れないんだよな。それでも頑張ってたわけよ。

それなのにメンバーはオレが書く歌が悪いとか、もう30過ぎるし辞めたいとか好き勝手言い出しやがってさ。オレ自身もこのバンドはもうダメかもなって思い始めた時に、所属してたちっこい会社が潰れたんだ。おいおいって感じだったぜ。

だってオレはメンバー捨てて一人でも生き残るつもりだったんだからな。そんで気付けばただのプーたろう。金もねぇ。ダラダラ付き合ってた女とも別れた。だからって今更普通に働けるかっての。

オレはとりあえずホストとか行ったりそういう系で食いつないでた。
そのうち世の中くだらねぇってなってさ、イライラしまくってクスリに手出してさ。

パンクロッカーはクスリ常備、ってのも様になるだろ?」

『だから?』 

「…まさかこんな簡単に死ねるとは思ってなかったけど。今のクスリはヤバイねぇ…」


「上野 咲子。17歳」
「本庄 奈津美。17歳」

「私たちは神に仕える民となるために神教学校へ通っていました。でも…人を愛してしまった。神にこの身をささげると誓ったのに!」

『人を愛することが悪いというのですか?』

「いいえ。それはとてもすばらしいことです。けれど私たちが犯したのは禁忌。私は奈津美を愛した」
「あたしは咲子を」

「わかるでしょう?私たちの血は穢れたのです!悪魔によって植えつけられた彼女への愛が、振りほどこうとすればするほど執拗に捕らえるのです!」

『だから?』

「神に許しを請うて自ら命を絶ちました」


「鵜飼 敏郎。47歳。会社員」

「人間は誰でも失敗をする。でもそれはあいつらが悪かった!
俺を嫌い、蔑み、挙句リストラ。家族が居るんだ。妻も子も。

だから最期に会社の金を持ち逃げしてやった。
俺は指名手配され終われる身になった。当然家族を捨てて逃げた。」

『だから?』

「追い詰められたんだ。もう逃げられなかった。だから、首を吊った。」


アルミフェンス

『わたしたちの未来へ』

アメリカに地球の未来を予測することができるコンピューターがあるらしい。

その超最先端技術をもって作られた通称スーパーコンピューターは、130億年先の地球の姿を計算で割り出し教えてくれる。

あくまでシュミレーションシステムなのだが、それには過去から現在までの地球の歴史が組み込まれ、これから人類、いや地球がたどるであろう未来がわかる。


そんな話を聞いたので、想像してみた。

130億年?とてつもない数字である。

人類の祖先である霊長類が誕生したのは今から約6500万年前。

その誕生の地である地球が生まれたのは約46億年前。

宇宙の条件が整いさえすれば、地球と同じ惑星が2個は出来る長い長い時の流れだ。

もしかすると宇宙誕生までさかのぼるかもしれないという数字である。


では130億年後に人類は生き残っているのだろうか?
答えはNOである。

地球は太陽系に属する。
太陽の寿命は残り40~50億年と言われている。

大量の光と熱を放出しながら燃えている太陽は、年々膨張し、最後には爆発を起こして死を迎える。

その際、地球は太陽の熱で灼熱地獄になるだろうし、太陽が爆発する以前に絶滅しているだろう。

いやいやそれ以前に環境破壊で地球が壊滅的な打撃を受けたら?
食糧難に陥り、それが元で戦争なんか始めてしまったら?

もしくは突然隕石が降ってきて、そのエネルギーにより自転や惑星の軌道が変わってしまったら?

スーパーコンピューターはそんなことまで予測はしていない。

あくまで宇宙や地球が滅びることなく在り続ける、という想定で計算している。

しかしシュミレーションはただのシュミレーションにすぎない。

地球や人類を守るのは、けっきょくわたし達1人1人の心がけなのだ。

コンピューターには理解できない人間の感情を大切に、今を生きようと思う。

たとえ人類の未来が暗くても・・・。

グローブトロッター


2009年05月19日

『世界遺産のある街』

世界遺産の番組などを見ていると、海外の有名な城や地域などがよく取り上げられている。

何百年も荘厳な佇まいを見せる壮大な建築物。

そこで繰り広げられていた様々な人間模様や歴史を想像する時、胸に昇るのはノスタルジックな感傷と、かつては存在した世界への憧憬。


あなたの街に世界遺産はありますか?


世界遺産と一口に言っても、その中には様々な種類がある。

その中でも最も目にするのが世界文化遺産。

カンボジアのアンコールワットやエジプトのテーベと墓地遺跡。

インドのタージマハルに中国、万里の長城などが文化遺産として登録されている。

その他に自然遺産と呼ばれる世界遺産もある。

オーストラリアのグレートバリアリーフやロシアのバイカル湖、などがそうだ。

これは例を見ない美しい自然や島などが当てはまる。

もう1つは複合遺跡。

トルコのカッパドキア岩窟群やペルーの空中都市マチュピチュだ。

自然の地形を利用した建築物が目を引く。


ではわが国日本はどうだろうか?

海外のような壮大な自然や建築物はないが、島国独特の伝統や技術は他のどの国にも引けはとらない。

代表的なのは古都京都の文化財だろう。

金閣寺や清水寺、東寺など数々の寺や城が挙げられる。

忘れてはならない歴史の傷跡、広島の原爆ドームも遺産の1つだ。

そして独自の文化の象徴である城。姫路城は世界遺産である。

日本の城は戦乱の際に焼失したり、取り壊されたりと今は数が減ってるが、築城全盛期にはなんと二万五千にも達していたと言われている。

残念ながら現代では城跡しか残っていない場所の方が多いが、小さな島国、ちょっと遠出をすれば当時の世界観を顧みることができる。


GWに家に篭っていた人、次の夏休みにはぜひ先人たちが残した文化に触れてみることをオススメする。

海外でも、国内でも・・・。


近鉄沿線百科


2009年05月15日

『私が背後を護るワケ』

「いってきま~す」

カンカンカン…

軽快なステップで、階段を降りてゆく音が聞こえる。

団地の薄い壁は、人の行き来や会話の内容までをいつでも知らせた。

玄関から自室に戻り、パソコンを起動させると、外から

ズシャ。

何やら嫌な音が聞こえた。

「ア゛ァァ…」

そして呻き声。

驚いて窓から身を乗り出して見ると、1階の踊り場で母がうつぶせに倒れていた。

側では16になる弟が

「ママ…大丈夫?」

とオロオロその場を行ったり来たりしている。

私は猛烈な勢いで家を飛び出した。

階段を降りきると、母は何とか起き上がってはいたが、座りこんでいる。

覗き込むと、

ひいっ!
血まみれじゃないか!

鼻血か?と思ったがそうではなかった。

切れた唇から出血している。

「イダィ…」

「だろうね」

「もぅ買い物行けない…」

「代わりに行くから」

事情を聞くと、階段を無事に降りたにもかかわらず、道路へと降りる低いたった2段で足を滑らせ、不幸なことに顔面から地面に激突したらしい。

幸い顔と足の擦り傷だけで大事には至らなかったが、なんとも間抜けな話である。

「こんな顔じゃ仕事行けない~」

と嘆く母に

「せめて連休でよかったね」

と呟く。


顔は女の命。

この悲惨な出来事を繰り返さないためにも、私は階段を登る時には母の背後を歩くことに決めている。


でも落ちてこないでね。

きっと支えられず、一緒に落ちるだけだから。

まぁクッションぐらいにはなれると思うよ。

自己流子育て哲学

『タイムマシンに乗るのか乗らないのか』

ふと思うことがある。

もしもタイムマシンがあるならば、自分はどの時代へ向かうのか。


最近若い女性たちの間でも流行っているのは戦国武将。

武田信玄、石田三成、織田信長などの武将たちに注目が集まっているようだが・・・

この目で有名な武将たちを見てみたい!

・・・と安易に戦国時代へ行くとする。

するとたちまち戦火に巻き込まれ死亡・・・

もしくは怪しい奴!

と牢に入れられたりしちゃうかもしれない。


いかんいかん。

ぶっそうな時代に行くと命の保障はない。


ではどの時代、どの場所が安全なのか。

しかし歴史年表を見てみると、安全と呼ばれる時代などないに等しいということに気付く。

どの時代でも人間たちは争いをしているし、そのために食料危機に陥ったり尊い人民の命が危険に晒されている。

長きに渡り紛争を行う国もあり、生まれた時から死ぬまで平和を知らない人もいる。


ではもっともっと昔・・・農耕作が始まったぐらいの時代はどうだろう?

・・・ダメだ!

そこでも食糧難に悩まされ、不衛生な生活はウイルスという凶暴な敵を慢心させるだろう。


・・・つまり、ぬくぬくと現代に育てられた私たちは、タイムマシンが出来ても好奇心で過去へなど行ってはいけないということだ。

だからといって未来ならば安全、という保障もどこにもない。


今ある自分たちの生活がいかに安全であるか、をかみ締めながら今を生きていく。

それが一番なんだろうな。


だからどうか優秀な科学者のみなさん、

タイムマシンなんて作らないでくださいね^^


パネライベルト

2009年05月11日

『狼と7匹のこパンダ』

夫の朝帰りに妻はほとほと呆れ果てていた。

夫の言い訳はいつも曖昧で、妻を納得させるには至らない。


今日こそは、と決心を固める妻は、明け方に物音を潜ませて帰宅した夫を問い詰めた。

「連れとバッタリ出くわして、夜中まで飲んでた。終電がなかったから始発までカラオケBOXで時間潰してから帰ってきたんだよ」

「あなたには連れとバッタリ出くわす運でもあるのかしら?その言い訳、何回目だと思ってるの?」

「じゃあ浮気の証拠でもあるのか?」

「真実はあなたしか知らないはずよ。私は別にそのことについて白黒ハッキリさせたいわけじゃないの」

不穏な空気をどうにかしようと、夫は寝不足の頭をフル回転させて、なんとか言い訳を捻り出そうとした。
そして言った。

「じゃあ…パンダの手は白なのか黒なのか」

夫の頭の中にはなぜか、浮気相手の部屋で見たパンダのぬいぐるみが浮かんでいた。

きょとんとする妻に向かって夫は語り出した。


「例えば、狼と7匹のこやぎという童話がある。母の留守中に狼がやってきて、扉を開けてくれないこやぎたちをあの手この手で騙して食ってしまう残酷な話だ。それがもし、こやぎじゃなくてこパンダだったらどうだ?」

「食べられちゃうんじゃない?」

妻は突然始まった意味不明な物語を鼻で笑ったが、夫は引かなかった。

「ばぁか。パンダをナメんなよ。こパンダたちは狼がきてもドアを開けなかったんだ」

トントントン。

お母さんですよ。

この扉を開けておくれ。

狼はパンダさん家をノックした。
目的はもちろん空腹を満たすためだ。

笹の木の下でお昼寝をしていた7匹のこパンダたちは、起き上がるのが面倒だったので、応対を一番下の弟に押し付けた。

しぶしぶ玄関まで4つ足で歩いていった末っ子は、母のあまりにも早い帰宅を怪しむ。

「ほんとうにお母さん?町まで買い物に行ったんじゃないの?」

「途中で足をくじいてしまったから帰ってきたのよ」

うわずった声色で答える狼。

納得できないこパンダはさらに言う。

「じゃあ答えて。そのくじいた足は何色なの?」


少し考えてから狼は答えた。

「パンダの足は黒に決まってるでしょう?」

こパンダは自分の足を見た。
……その足は白かった。

こパンダは慌てた。

慌てて兄弟たちのいる部屋に走っていって彼等の足を確かめた。

白。黒。グレー。

重なり合って眠るこパンダたちの足はいろんな色をしていた。

成長途中のこパンダはまだ毛の色が安定していなかったのだ。

こパンダは迷った末に狼に言った。

「じゃあお母さんの足を見せてよ」

狼はサッと小窓から自分の足を差し出した。

それは確かに黒かった。
しかしこパンダは馬鹿じゃなかった。

明らかにほっそりとしたその足には、母の面影など微塵もないことに気付いた。

狼の足はパンダのそれに比べてあまりにも……あまりにも細かった!

「おまえは狼だ!森へカエレ!」

こうして狼を撃退したこパンダは、幸せなお昼寝タイムを満喫したのだった。

そして……そのお昼寝の間に隣の家のこやぎたちが襲われていることには全く気付かなかったのである。


「な?白黒ハッキリしていたら、食べられていたのはこパンダたちだぜ?」

即席童話を語ると、夫はそう言って妻を諭した。

「だから俺も白であり黒でありたい。詮索はやめてくれ」

今まで黙って物語を聞いていた妻は、夫のどこまでもしらをきるその態度に、数年間の結婚生活が薄っぺらい真実だったということに気付いた。

「それでも私は白黒ハッキリつけたいわ」

言われて見ると、机の上には離婚届が静かにその存在を主張していた。

…うそだろ?

呻く夫に明るい未来を取り戻そうと決心をした女は言い放った。

「だってあなたは狼かもしれないけど、私はこパンダじゃないもの。

だってあなたは白黒を混ぜてグレーにする大人かもしれないけど、私はハッキリとした答えを求める大人だもの。

あなたの屁理屈は面白かったけど、私の人生には必要ないみたいね」

その薄っぺらい紙切れは、絶大な効果を持っていた。

・・・シュールな実話ですね。

LEMON ANGEL PROJECTで婚活

2009年05月05日

『仮面劇』

今となってはもう、名前しか知らない。

人間の記憶というものは実に曖昧で、大事な記憶ほど脳内でなぞるたびに真実からは遠ざかる。

理想の色を塗りたくり再生をすれば、いつしか虚像の真実が出来上がる。

私は幸せだったのだと。

思い出を思い出のまましまっておくことができなかった。

だから私は彼を探すことにした。

今となってはもう名前しかわからない人を。

個人情報保護法などという条例のおかげで捜査は難航した。

インターネット、市役所、私たちの思い出の場所。

思いつく限りの方法で彼を探した。

気付けば時間もお金もなくなっていた。

ずいぶん遠くまで来てしまった、と最後に入った飲食店で私は彼と再会した。

古びた定食屋の隣のテーブルに座った、作業着姿の男たちの中に彼が居た。

おぼろげにしか残っていなかった記憶の中の彼の姿が瞬時に一致を見せた。

薄くなった髪や痩せた体が、空白の十年を物語る。同僚らしき男はが彼の名を呼んでいた。

注文した天丼の海老の衣を箸ではがしながら、私は彼らの会話に耳を寄せていた。

彼の出で立ちから現在の生活がどのようなものかはすぐにわかった。

くたびれた作業着に、ボロボロのスニーカー。

注文したのも一番安い素うどん。

ねぇ。私、来月には企業の社長と結婚するのよ。そう言ったら彼はどう思うだろうか。

しばらくして彼らが店を出ると、私はすぐに店主に聞いた。

「あの人たちは常連さんだよ。すぐそこの下水処理場で働いている」

愛想のいい店主は白い前掛け姿のままニイっと笑った。

「知り合いかい?」

私はニイっと笑い返した。

「…父なんです。ずっと探していました」


人間の記憶というものは実に曖昧だ。

楽しい思い出はそのままに。

悲しい思い出は極上に甘い思い出に。

私と母を捨てて家を出て行った父。

彼を探していたのは、あなたがいなくても私は幸せになれるの、という台詞を叩きつけたかったからにすぎない。

白い仮面をつけた思い出は黒い真実をチラつかせる。

『じゃあ早く追いかけないと!』

店主が勢いよく店の扉を開けた。

『でも…やっぱり見間違いでした』

現実はただ粗削りのドラマのようで、無知だったあの頃の自分に還りたいと願う私。

真実は真実でしかない。

私に真実(まみ)という名前をつけてくれたあなた。

虚像で固めた、ずっと育ててきた綺麗な思い出が色あせないように、私は今日という記憶を静かに抹殺した。


さぁ。

もう一度仮面をつけようか……。


ミステリアス信州

『ギフト~ささやかな贈り物~』

 私はずっとあなたを見つめていた。

 それなのにあなたは気付かない。

 私の気持ちなんかには・・・。

 そして私の願望は、見つめるだけには留まらず加速してゆくばかり。

 あなたに・・・触れてみたい。

 そう、それだけの願いだったのに

 どうしてこんな事になってしまったんだろう。

 真っ赤な血の海の中で、私はゆっくりと目を閉じた。

「ご飯できたよー浩介―。」

 彼の大切な彼女。私は二人の邪魔をする。

 気付かれないように背後から。

 ・・・これぐらいはいいよね?

 二人に見つからないように、そっと。近づく彼の温度。

 ずっと触れたかったあなた。

 私はそっと、彼の肌に触れた。

 その瞬間、言いようのない幸福感が体を包み込む。

 待っていた喜び・・・。

 しかし

 バンッ!


 突如、耳が張り裂けそうなほどの爆音が轟いた。
 全身が震えて私の体は動かなくなった。


「浩介!血が!」

「いや・・・平気。」

 遠くなる意識の中で、二人の声が微かに聞こえてくる。

 彼女がすごい形相でこちらを睨みつけている。

 私はこのまま死ぬんだ。そう思ったら泣けてきた。

 でも、これでいい。所詮私の命は長くはなかったのだ。

 だけどせめて・・・と最期の力を振り絞り、私は彼の腕にしがみつく。

 せめてあなたにだけは、私がこの世にいた事を覚えていてほしいから。

 これが私の最期のプレゼント。

「・・・平気だけどちょっと遅かったな。こいつ俺の血吸った後だぜ。」

「もう蚊の季節なのねー。」

「・・・うわっ!かゆっ!!」     

Biomedical(バイオメディカル)


              

2009年05月02日

『禁 煙』


「禁煙しようと思う。」

アパートの一室で、僕はできもしない事をサラリと言ってみた。できるだけにこやかに。

 目の前の彼女は、信じられないような目で僕を伺っている。

 それもそのはず。だって…。

「そのセリフ、何回言った?」

 予想通りのリアクションに僕は少し満足した。だがこれからが本気モードなのだ。

「いや、お前の言う事はよくわかる。確かに何回も言ったさ。
…5回いや10回ぐらいかな。でも今回は前とは違う!」

「…なんなのいきなり。」

 余計不信感を煽ったのか、彼女の視線は冷たい。まぁ聞いてくれているのでまだマシな方だが。

「僕の友人は『タバコをやめたくなる本』を読んで本当にやめられた。」

「…それ、どんな本?」

 聞くところによると、タイトルはそのまま『タバコをやめたくなる本』。

一見絵本のようなカバーで、開くとただひたすら3Dのイラストが並んでいるものらしい。

それを見つめているとアラ不思議。吸いたい気持ちが現象していく…というのだ。

「…そんな怪しげな本を読みたいの?」

「いやそれは例えで…そうそう僕の上司は奥さんが妊娠した時にやめたらしいよ。母体に悪いからってさ。」

「へーいい旦那さんね。」

「だ、だから……。」

 僕は少し上目遣いで彼女を見やる。

「僕もやめる事にしたんだ。」

 キッパリとこれは決まった。うん。男らしい!

得意気に次の言葉を待っていると、今度はなぜか訝しげな目で見られた。

「・・・・・・意味がわからないんだけど。」

「だ、だからっ!」

 反応にガックリしながら僕は高鳴る胸の鼓動をおさえつつ、テーブルに身を乗り出した。
たぶんマンガにすると美少女系なキラキラおめめになっていたであろう。そして言った。

「出来たんだろ?僕らの赤ちゃんが!だから僕も禁煙するって事!」

 今度は間髪入れず白い目で見られた。

「何の話?」

「え?」

 きょとんとしたのは僕だった。

「…見たんだよ…ゴミ箱に…その…検査薬…。」

 昨日はゴミの日だった。

出勤しようと慌てていたら、運悪く玄関に置いてあったゴミ袋につまずいた。

キチンと口が閉じていなかったらしい袋からはゴミが…。

その中に発見したのが妊娠検査薬だ。僕は慌ててその箱を拾い上げた。

中には使用済みの検査用スティック。そこに開いていた小窓を除くと、青い縦線が浮かんでいた。

もちろん説明書を見た。おめでたという事だった。

 間違いない!

 彼女の顔が見る見る赤くなった。まさか僕がすでに知っていたなんて思いもしなかったのだろう。

彼女の事だ。一人で悩んで言い出せずにいたに違いない。

 だけど僕は薄情な男じゃない。一日考えて結論を出したのだ。

「…僕はまだ社会人になったばっかりで収入も少ないし、部屋もこんなボロアパートだけど…お前の事はキチンと……。」

「ちょっと待って!」

 僕のスピーチを彼女のしっかりとした声が制した。顔を上げると、彼女は落ち着いた表情で僕を見つめていた。

 な、なんだ?こんな時にドキドキしているのは男だけか?

「そのことで話があるの。」

「な、なに?」

 低いトーンでそう言われ、僕の頭の中は一瞬にしていろんな妄想が走り出す。

まさか僕との子じゃないとか違う人との間に出来た子だとか。(あ、一緒だった)

 するとそんな僕の暗い心を知ってか知らずか、彼女は一瞬躊躇してから次の言葉を放った。

「私ね、子供が出来にくい体らしいの。」

「…………は?」

 予想もしなかった言葉に僕は口を開けた。

「だから…ありえないとは思ったんだけど、その…女の子の日が遅れてたから、ちょっと期待しながら試してみたの。」

「だ、だってだって陽性って出てただろ!」

「うん。あれは…。」

 モゴモゴと言いにくそうに彼女はうつむく。

「な、なに?」

 今度は何があっても驚かないぞ。

「あれね…本当はヨコセンが出てたんだけどさ、腹立って水に漬けたら…なぜかタテに変わったの。」

「はぁ!?」

 一気に気が抜けた。身を乗り出していた僕はそのまま机に突っ伏す。

すると頭の上から申し訳なさそうな彼女の声が降ってきた。

「私だって期待してたんだよ。でもこんな体だなんて今まで言えなくて…。」

 最後あたりは泣き声になった。慌てて僕は顔を上げ、なんとか笑みを作ってやる。

「いーじゃんか!きっとまだ時期じゃないんだよ!これからさ、ちゃんと結婚してそれから子供を作ろう!」

「でも…。」

「不可能なことなんてない!よく聞くよ。不妊症の人が妊娠に成功したって!な?」

 僕が向こう側に回り肩を抱いてやると、彼女はそのまま泣き出してしまった。

正直僕の頭の中は混乱していたが、彼女が幸せそうに笑い、そして泣くので不安なんかどこかへ消えてしまった。考えるのは後にしよう。

 僕が最初に描いていたストーリーとは全く違う結末。これだからこそ恋愛は楽しいんだろう。

「…でも、せっかくだから禁煙して。」

「…は、はい……。」

 でも、墓穴。

END


LEMON ANGEL PROJECTで婚活


  

『ラスト・ノート』

シュッ…
弾けとび混じりあう色香。

何年かぶりに空気にさらした香水からは、夜の香りがした。

あの頃の私がずっと愛用していた香水。

赤いハート型の小瓶の中で揺らめく妖しい女の色。

少し甘めでキュートなセクシーさをもった香り。

女らしさを求めていたあの頃の私の精一杯の背伸びの証。

「前から言おうと思ってたんだけど…」

昨日、会社の同僚から突然そう切り出された。

ほぼ同期で入社した、ほぼ同じ年の爽やかなオトコマエ。

入社してから3年半、仕事に明け暮れる毎日の私には素敵な切り出しだった。

「なぁに?」

昼食後のまったりした空気のデスクで、私は身を乗り出す。

あ~。

化粧直ししといてよかった。

「キミって、スイカの匂いがするよね」

ハァ!?

スイカァ!?

…と思ったことが顔に出たのだろうか、同僚は慌てて続ける。

「いや、なんてゆうか…スイカ?てゆうか…瓜系?みたいな」

内容的にあまり変わってないんですけど…。

私は心当たりのある部分を自分で匂ってみた。

手首には今朝つけたばかりの香水が残っている。

…スイカ?

自分では完璧にフルーティーな爽やかさを狙っていたのだけれど。

…よりによってスイカ。

しかも使いはじめて3年以上もたってからスイカ…。

プシュ
…と、久々のときめきも吹っ飛んでいった。


最近好んで使っている柑橘系の香水。

トップノートから変化をとげるミドルノート…。

どうやらその部分の香りがスイカらしい。

つけたては鼻をくすぐるフレッシュな香りなのに、しばらくすると私はスイカ女に変身しているのだ。

…知らないうちに。

気になって他の人にも聞いてみたけど、誰もが同じ反応だった。

「…言われてみればそうよね」

…それって、いい匂いなのかあまり高感度よろしくないのかわからなくない?

…というわけで、さっそく前まで使用していた香水を引っ張り出してみたのだ。

スイカ女よばわりされちゃ、あまりいい気分ではない。

アトマイザーに少量入れ、左手首に吹き付ける。

そこから右手首と合わせ首すじへ。

甘く鼻孔を刺激するやわらかな香り。

それを感じた途端、いいようのない切なさが胸を支配した。

頭の中に蘇るのはあの時の…。

思い出したくないからと閉じ込めてきた過去。

それはじわじわと波のようにやってきた。

私は立ち尽くす。

1つ、1つ。

あの人がよみがえった。

自分でも忘れていた情景が次々と浮かんでは消える。

…この香りの中、隣で眠っていたのは誰だったのだろう?

指をからめ、愛を誓ったあの人。

今は空白の胸の中にいた、あの人。

振り向いてほしくて、
抱きしめてほしくて。

精一杯背伸びしていた。

過ぎ去ったあの時間。

私はそこで初めて知った。

この香水を封印したのは、あの人がいなくなったからだったんだ。


「キミ、今日なにか違う」

出勤した私にオトコマエが言う。

「そうかな?」

決してあなたに言われたからじゃないわよ。

なんて思いながら自分のデスクに向かって今日のスケジュールを確認する。

そう。

ここにいるのは色褪せた過去を見つけた私。

あの頃の自分と対話して、無理矢理封じ込めていた過去とようやく向き合えた気がするの。

時の変化に伴って、女は香水やメイクを変えていくものなのね。

あの頃よりは…いい女になれているかしら?

甘い甘いピンク色。

それは私だけの夜の香りだった。

■今月はエッセイ風物語でお送りします。

清く恋しく、美しく