2009年05月26日 01:37

『救われたい魂のさけび』1

『さぁ始めましょうか。クリス』

楽しい楽しい人間ショーを……。



『ようこそ、罪深き魂たち』

暗い部屋の中から唸るようにその声は言った。

声の主の姿は暗闇で見えず、呼ばれた者たちは当惑を隠しきれない。

何しろ自分の姿すら見えない。

圧倒的な闇の中で数人の荒い息遣いだけが近く聞こえる。

『こちらへどうぞ』

その声がそう言うと、目の前に灯りが灯った。

しかしそれはおぼろげな光で確かな形を成してはいない。

それでも闇が去ったことでいくらか安堵したのか、呼ばれた者たちはその光へと集まってきた。

自分の他に人が居ることを確認する。

闇に慣れていたせいか、彼らの目にはまだ人としての輪郭を認識しただけだったが。

「なんなの?ここは」

人影のうちの一人が口を開いた。女だ。落ち着きがなくキョロキョロと辺りを見回している。

「わかんねぇ。どうなってんだ?オレはさっきまで部屋で…」

「気付いたらここに居たんだ!」

男の声に続き幼い声が悲鳴をあげた。

みな自分の置かれた境遇を必死で理解しようと記憶を辿っている。

「…私たち、薬を飲んだの。いっぱい」

「うん。一緒に飲んでた」

別の影が二つ現れた。光に照らされて顔はわからないが、まだ少女のようだった。

その後でしゃがれた声が響く。

「俺は逃げていた!あいつらが追ってきたんだ!だから…!」

誰もが「まさか…」という想いに囚われ始めたその時、声が言った。

『はい。あなた方は自殺者です。思い出しましたか?自ら命を絶ちましたね?』

みな黙り込んだ。みなに自覚があった。

しばらくしてから女が言った。

「で?自殺したあたしたちが何故こんなところに居るの?なんで意識あんのよ!ちゃんと死ねたんでしょ!?」

『はい。死んでいますよ。ちゃんと死んだからここに来たのです。でもね…』

姿のない声の主は感情のない声色で続けた。

『死後の世界では意識がないなどと誰が決めたのですか?そりゃぁキチンと死んだ方たちはそのまま安らかに天に昇りますよ?でもあなたたちは…』

「自殺者だわ!私たちの血は呪われている!神は天に行くことをお許しにならないんだわ!」

少女がヒステリックに叫んだ。

その隣でもう一人の少女がうずくまり口の中で何かを唱え始める。

「主よわたしたちをおゆるしくださゴニョゴニョ……」

『自ら生きる権利を放棄したあなた方に安息などありません。さぁ、己の苦しみを語って戴きましょうか。』

少女がすでにしてもいないはずの息を止めた。

そして全員、光を受けてその身をはっきりと浮かび上がらせた。

そして視線は自然に、一人の女へと注がれた。




「片瀬 美奈子。しがない建設会社の事務員」
『死んだ時の年齢は?』
「……29よ」

「7年付き合った恋人がいたわ。結婚するはずだった。約束も何にもしてなかったけど、それだけ長く一緒に居たら普通に結婚するって思うわよね?

でもあいつ、他に好きな子できたから別れようって…。こんなのありえないよねぇ?

しかも13も年下の女と!確かに浮気するような奴だったけど、最後は美奈子だけだよって言ってたのよ?……とにかくあたしは捨てられたの。三十路を前にね。周りがバタバタと結婚していく中放り出されたの」

『だから?』

「あいつの部屋で手首切って死んでやった。陳腐なドラマみたいでしょ?」


「堀田 健司。12歳。小学生。」

「いじめられてた。学校に行きたくなかった。でも先生もお母さんもお父さんも、わかってくれなかったよ。お兄ちゃんはよしよしってされるんだ。

でも僕には笑ってくれない。この前お母さんのコップ割ったら叩かれたんだ。
そんなことしょっちゅうだったから痛くなかったけど、追い出された。

いらないって言われた。
……イタカッタ。
もうどこに行ったらいいのかわからなかったんだ」

『だから?』

「マンションの屋上から飛び降りた」


「カイン。本名は…田中 義雄。31歳のパンクロッカーだよ」

「5年前にやっとメジャーデビューしたんだけどさ、なんでか全く売れないんだよな。それでも頑張ってたわけよ。

それなのにメンバーはオレが書く歌が悪いとか、もう30過ぎるし辞めたいとか好き勝手言い出しやがってさ。オレ自身もこのバンドはもうダメかもなって思い始めた時に、所属してたちっこい会社が潰れたんだ。おいおいって感じだったぜ。

だってオレはメンバー捨てて一人でも生き残るつもりだったんだからな。そんで気付けばただのプーたろう。金もねぇ。ダラダラ付き合ってた女とも別れた。だからって今更普通に働けるかっての。

オレはとりあえずホストとか行ったりそういう系で食いつないでた。
そのうち世の中くだらねぇってなってさ、イライラしまくってクスリに手出してさ。

パンクロッカーはクスリ常備、ってのも様になるだろ?」

『だから?』 

「…まさかこんな簡単に死ねるとは思ってなかったけど。今のクスリはヤバイねぇ…」


「上野 咲子。17歳」
「本庄 奈津美。17歳」

「私たちは神に仕える民となるために神教学校へ通っていました。でも…人を愛してしまった。神にこの身をささげると誓ったのに!」

『人を愛することが悪いというのですか?』

「いいえ。それはとてもすばらしいことです。けれど私たちが犯したのは禁忌。私は奈津美を愛した」
「あたしは咲子を」

「わかるでしょう?私たちの血は穢れたのです!悪魔によって植えつけられた彼女への愛が、振りほどこうとすればするほど執拗に捕らえるのです!」

『だから?』

「神に許しを請うて自ら命を絶ちました」


「鵜飼 敏郎。47歳。会社員」

「人間は誰でも失敗をする。でもそれはあいつらが悪かった!
俺を嫌い、蔑み、挙句リストラ。家族が居るんだ。妻も子も。

だから最期に会社の金を持ち逃げしてやった。
俺は指名手配され終われる身になった。当然家族を捨てて逃げた。」

『だから?』

「追い詰められたんだ。もう逃げられなかった。だから、首を吊った。」


アルミフェンス