2009年05月11日 05:03
『狼と7匹のこパンダ』
夫の朝帰りに妻はほとほと呆れ果てていた。
夫の言い訳はいつも曖昧で、妻を納得させるには至らない。
今日こそは、と決心を固める妻は、明け方に物音を潜ませて帰宅した夫を問い詰めた。
「連れとバッタリ出くわして、夜中まで飲んでた。終電がなかったから始発までカラオケBOXで時間潰してから帰ってきたんだよ」
「あなたには連れとバッタリ出くわす運でもあるのかしら?その言い訳、何回目だと思ってるの?」
「じゃあ浮気の証拠でもあるのか?」
「真実はあなたしか知らないはずよ。私は別にそのことについて白黒ハッキリさせたいわけじゃないの」
不穏な空気をどうにかしようと、夫は寝不足の頭をフル回転させて、なんとか言い訳を捻り出そうとした。
そして言った。
「じゃあ…パンダの手は白なのか黒なのか」
夫の頭の中にはなぜか、浮気相手の部屋で見たパンダのぬいぐるみが浮かんでいた。
きょとんとする妻に向かって夫は語り出した。
「例えば、狼と7匹のこやぎという童話がある。母の留守中に狼がやってきて、扉を開けてくれないこやぎたちをあの手この手で騙して食ってしまう残酷な話だ。それがもし、こやぎじゃなくてこパンダだったらどうだ?」
「食べられちゃうんじゃない?」
妻は突然始まった意味不明な物語を鼻で笑ったが、夫は引かなかった。
「ばぁか。パンダをナメんなよ。こパンダたちは狼がきてもドアを開けなかったんだ」
トントントン。
お母さんですよ。
この扉を開けておくれ。
狼はパンダさん家をノックした。
目的はもちろん空腹を満たすためだ。
笹の木の下でお昼寝をしていた7匹のこパンダたちは、起き上がるのが面倒だったので、応対を一番下の弟に押し付けた。
しぶしぶ玄関まで4つ足で歩いていった末っ子は、母のあまりにも早い帰宅を怪しむ。
「ほんとうにお母さん?町まで買い物に行ったんじゃないの?」
「途中で足をくじいてしまったから帰ってきたのよ」
うわずった声色で答える狼。
納得できないこパンダはさらに言う。
「じゃあ答えて。そのくじいた足は何色なの?」
少し考えてから狼は答えた。
「パンダの足は黒に決まってるでしょう?」
こパンダは自分の足を見た。
……その足は白かった。
こパンダは慌てた。
慌てて兄弟たちのいる部屋に走っていって彼等の足を確かめた。
白。黒。グレー。
重なり合って眠るこパンダたちの足はいろんな色をしていた。
成長途中のこパンダはまだ毛の色が安定していなかったのだ。
こパンダは迷った末に狼に言った。
「じゃあお母さんの足を見せてよ」
狼はサッと小窓から自分の足を差し出した。
それは確かに黒かった。
しかしこパンダは馬鹿じゃなかった。
明らかにほっそりとしたその足には、母の面影など微塵もないことに気付いた。
狼の足はパンダのそれに比べてあまりにも……あまりにも細かった!
「おまえは狼だ!森へカエレ!」
こうして狼を撃退したこパンダは、幸せなお昼寝タイムを満喫したのだった。
そして……そのお昼寝の間に隣の家のこやぎたちが襲われていることには全く気付かなかったのである。
「な?白黒ハッキリしていたら、食べられていたのはこパンダたちだぜ?」
即席童話を語ると、夫はそう言って妻を諭した。
「だから俺も白であり黒でありたい。詮索はやめてくれ」
今まで黙って物語を聞いていた妻は、夫のどこまでもしらをきるその態度に、数年間の結婚生活が薄っぺらい真実だったということに気付いた。
「それでも私は白黒ハッキリつけたいわ」
言われて見ると、机の上には離婚届が静かにその存在を主張していた。
…うそだろ?
呻く夫に明るい未来を取り戻そうと決心をした女は言い放った。
「だってあなたは狼かもしれないけど、私はこパンダじゃないもの。
だってあなたは白黒を混ぜてグレーにする大人かもしれないけど、私はハッキリとした答えを求める大人だもの。
あなたの屁理屈は面白かったけど、私の人生には必要ないみたいね」
その薄っぺらい紙切れは、絶大な効果を持っていた。
・・・シュールな実話ですね。
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- at 05:03