2009年05月15日 19:35
『私が背後を護るワケ』
「いってきま~す」
カンカンカン…
軽快なステップで、階段を降りてゆく音が聞こえる。
団地の薄い壁は、人の行き来や会話の内容までをいつでも知らせた。
玄関から自室に戻り、パソコンを起動させると、外から
ズシャ。
何やら嫌な音が聞こえた。
「ア゛ァァ…」
そして呻き声。
驚いて窓から身を乗り出して見ると、1階の踊り場で母がうつぶせに倒れていた。
側では16になる弟が
「ママ…大丈夫?」
とオロオロその場を行ったり来たりしている。
私は猛烈な勢いで家を飛び出した。
階段を降りきると、母は何とか起き上がってはいたが、座りこんでいる。
覗き込むと、
ひいっ!
血まみれじゃないか!
鼻血か?と思ったがそうではなかった。
切れた唇から出血している。
「イダィ…」
「だろうね」
「もぅ買い物行けない…」
「代わりに行くから」
事情を聞くと、階段を無事に降りたにもかかわらず、道路へと降りる低いたった2段で足を滑らせ、不幸なことに顔面から地面に激突したらしい。
幸い顔と足の擦り傷だけで大事には至らなかったが、なんとも間抜けな話である。
「こんな顔じゃ仕事行けない~」
と嘆く母に
「せめて連休でよかったね」
と呟く。
顔は女の命。
この悲惨な出来事を繰り返さないためにも、私は階段を登る時には母の背後を歩くことに決めている。
でも落ちてこないでね。
きっと支えられず、一緒に落ちるだけだから。
まぁクッションぐらいにはなれると思うよ。
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